南みちのく放浪の旅Vol.2〜いろいろありすぎた日

義光さま。

さて、こんな健康ランドなんぞに長居は無用。きちんとした宿には「泊まる楽しみ」もあるから長居するべきだろうが、こんな安全性すらも危うい、安いだけが取柄の木賃宿からはさっさと抜け出すに限る。しかも男性専用なので、何時尻を掘られるか分かったもんじゃない。
で、朝風呂を堪能してから7時にはチェックアウト。青葉城に行こうと思ったが、バスが一時間に一本しかなく、待ちぼうけ。仕方なく駅の地下街のロッテリアで今日の旅のプランを練る。結果、市街探索→松島→山寺→山形→米沢(寝るだけ?)という強行軍を組む事にした。
また、この日はものすごく冷たい北風がビュービューと吹き荒れて、街中の立て看板が軒並み死屍累々の状態であった。北国へ来たんだなぁ、と実感していたら、どうやら日本中そうだったらしい。ぜんぜん知らんかった。以前、戦闘中のイスラエルの寺院に入っていった日本人カップルが晒されていたが、彼らの気持ちも分からんでもない。だって、日常から逃げ出したいと思ってふらふらしている人間に、最新ニュースを知ろうなんて気概が起こるはずないもの。
閑話休題。やっと来たバスに乗って青葉城へ。仙台は神戸と違って市街地が広がっていくだけの土地があるため、青葉城のある山も道路が通っているだけ。実に自然を楽しめるスポットなのだ。なにせ駅からバスで10分で渓谷が見えるんだから。
そして青葉城に到着。護国神社で巫女さんに見とれた後、伊達政宗公の像を見に行く。さすがにかっこよかった。写真を10枚くらい撮ってたら、その辺の団体観光客に写真を撮ってくれるように頼まれる。へっ、こんなところへ来てまでみんなで写りたいかね。これだから日本人は(僻み)。でも、風のせいで若干ぶれたかもしれない。そのせいで、写真を撮ってくれるように頼んだ男は、生涯あのオバハン連中にいじめられるに違いない。気の毒なことをしたものだ。
そして、山を下って仙台市立博物館へ。構内に伊達政宗の胸像があったが、それよりも林子平のインチキくさいモニュメントに感動。彼もここの出身だったのか。また、若い頃に仙台で学んだ魯迅の胸像まで。博物館の展示に面白みを感じるようになったのは、大人になった証だろうか。ジジくさいとも言いますか。
博物館内では、もっぱら私の興味は船に注がれた。ほら、政宗公がメキシコ経由でスペインに支倉常長を派遣したでしょう。あれに関する特別展示があって、たいそう面白かったです。
そして、博物館から徒歩で駅へ向かう。さすがに杜の都と呼ばれるだけあって、街中ケヤキ並木でいっぱいでした。見事なまでに冬枯れしていたが、それもまた一興。駅でぶらぶらしてから松島へ。
まぁ、さすが日本三景と言われるだけあるな、と思った。が、観光地化しすぎて(=客から金をもぎ取ろうという態度が溢れて)いて、風情という点ではダメかも。ま、トロの寿司だの牡蠣を殻ごと焼いた奴だのを貪り食って、しっかりもぎ取られてきましたが。でも、どんじき茶屋で囲炉裏に当たりつつ食った団子の味は、そんな浮世の勘定に染まった気分を忘れさせてくれる、なんともいえない滋味がありました。自分だけが世の喧騒を離れてタイムスリップしたような。
そして、松島から快速で仙台に戻り、電車の待ち時間を利用して喫茶店ずんだ餅を喰う。この地方ならではのお菓子だが、これがまた美味しくて。ただ甘いだけじゃないのがなんともいえない。お茶請けの塩昆布とお茶で実にまったりと待ち時間を過ごせました。
そして、ホリデー仙山という快速電車に乗って山寺へ。この地名ではピンとこないかもしれないけど、あの「閑さや 岩にしみ入 蝉の声」の句が詠まれた場所です。これは行っておかないと。到着まで50分ほどある、という事なのでぐっすり眠ることに。
で、20分くらいして目が覚めたら、一面雪景色!! これにはぶったまげました。市街地から少し行くだけでこのような景色にお目にかかれるなんて。こちらに来てから北国らしさを感じたことが無かったので、素直に感動しました。しかし、電車に乗っているのにずっとケータイが圏外なのは……しかも電車の中ならいざ知らず、駅に着いてもずっと圏外ですからねぇ。どんな秘境を走ってるんだよ。
なんだかんだで山寺に到着。とりあえず立石寺に参拝しないと話にならないので、拝観料300円を払って、1015段の石段を登ることにした。登るごとに煩悩が取り除かれ、最終的には無の境地に至るんだとか。へぇ。
そして、私も無の境地に至るべく登り始めたが、ここで問題が。雪が踏み固められた石段は、とにかく滑るのです。手すりを頼りに途中までは登ってこれたのだが、どうしようもない雪床にぶち当たった。階段10段を雪が覆い尽くしていて、しかもそれが斜めに踏み固められていたのだ。どうやって登れ、と。何度かトライしたが、あまりにも滑りすぎるため、ギブアップして帰ることに。おかげで一本早い電車に乗れたけどさぁ。参拝料取るんだったら、雪かきくらいはきちんとしておけよ、このイカレポンチ野郎が。取り除かれなかった煩悩をどう処理すれば良いんだよ!!
閑さや 雪にしみ入 俺の声 「この寺に火をつけてやる!!」
さて、山形。ここの最上義光像を見るのも今回の旅の目標であったため、取るものもとりあえず山形城へ向かう。駅から徒歩五分でお堀が見えてきて、私の心は早鐘のように高鳴る。そして城のお堀で釣りをしている人まで。実に素晴らしい。市街地にこんなのんびりした場所があるなんて。
そして、いよいよ見えてきました義光像。この最上義光は、父を強制的に隠居させ、弟を家督相続の邪魔になるからと殺し、息子も徳川に擦り寄るのに邪魔になるから、と殺し、伊達政宗をも妹(政宗の母)を使って殺そうとした、謀略に生きるお方なのです。いいねぇ、こういう生き方。とても真似できないだけに憧れるのです。
石像。……さすがにかっこいい。よく脚二本で立っていられるものだ、と写真を見せた後輩に突っ込まれるまでは、この不安げな姿勢に気付かなかった。でも、かっこいいから良いんです。余韻に浸りつつ城を出たら、大手門でスケボーをしている馬鹿どもを見て一気に萎えましたが。
夕刻だったためか、街中にはヤンキーも多かった。しかし、彼らは日本人の格好をしているのだが、その口から発せられる言葉は明らかに普段耳にしている言葉と異なっていた。要するに訛っているのである。よって、まったく恐怖は感じず、むしろ愛着すら湧く存在に。言葉って不思議だねぇ。
街中のラーメン屋で「冷やしラーメン」を喰う。これがまた(゜д゜)ウマー。氷が入っていてとにかく冷たいのだが、油がぜんぜん浮いていない。味もなかなか。これは良い名物だな。ただ、私の席の横で店主が事情聴取されていて少し面白かったが。どうも泥棒に入られたらしい。結構人気のある店なんですね。そして、駅ビル(霞城セントラル)で夜景を堪能した後に米沢へ。高校生カップルが多く居て、うらやましいやらくやしいやら。
米沢。ついたのが午後8時。当然店は閉まってる。何にも無いので、宿だけ探してとっとと寝ることにした。3900円で泊まれる木賃宿(ビジネスホテル)があったのでアポなし突撃。うまく行った。いえぃ。
……まぁ、値段にしては良い部屋でした。しかし、なんとAV(CS)が無料で見放題!! うぉぉぉぉ!! 米沢ステーションホテル最高!! 皆さん、米沢にお立ち寄りの際は、是非米沢ステーションホテルへ!! と宣伝したくなるくらいのサービスですよ、これは。ここで山寺にて完全に取り除かれなかった煩悩が再発した。こうなったら、もうどうしようもない。そのまま3時間つけっぱなし。ハァハァ。
で、ハァハァしながらふと思った事。「俺、街で人を追い抜いているなぁ……」。大阪で歩いていても、人を抜けることなんてありえない。みんな速いから。が、東北の各地ではみんなのんびり歩いているから、こっちが自然に歩いていても人を抜いてしまうのだ。こんな旅先に来てまで日常を引きずっている自分に少し嫌気が差した。
……AVを流しながらウトウトしていたらメールが。後輩から。「テレビ見てたら仙台が出ていたので気になってメールしました☆」みたいな内容。かわいいですねぇ。米沢に居ることを伝えたら米沢牛食べた〜い☆ 何とかお願いしますよぉ♪」といった甘ったれた事を言われる。そんなに甘えられたら断れないじゃないですか。でも、明日は早いし、そんな時間に土産物屋が開いてるかな……と思ってたら、信じられない出来事が。
なんと、今まで私が女性だと思って応対してきた相手は、男だったのです。ぶち殺すぞ、ゴミめ。自分の恋人がケータイから離れているのを良いことに、一人で寂しくしている俺の心を釣ってお土産をせしめようとしたのです。なんという奴だ。そんなことをしなくても買ってくるつもりだったのに。もう買わないでおいてやる。しかも彼女から来たメールは「あんまり○○(男の名前)を調子に乗らせないでください」だからなぁ。力関係を如実にあらわしているというか。
……あと、ネカマに騙される男の気持ちが分かったような。文字だけだとわかんねぇよ、正直。そして、背後のテレビでは女子高生が喘いでるにも関わらず、私の意識はだんだんと闇に埋もれていくのでした。3日目へ続く
二日目の行程:JR仙台駅→(市営バス)→青葉城→(徒歩)→仙台市博物館→(バス)→仙台→(JR仙石線・快速うみかぜ)→松島海岸→(JR仙石線・快速うみかぜ)→仙台→(JR仙山線・快速)→山寺→(JR仙山線・特別快速)→山形→(JR奥羽本線)→米沢。長いなぁ。