デート商法に引っ掛かった!

0:はじめに

この話はフィクションです。実在の人物・団体・事件等には一切関係ありません。すべて俺の妄想です。

まずは俺のスペックから。
当時24歳。独身。引きこもり。ヲタ。彼女なんて居たことない。気がつけば一週間携帯電話が鳴らないってこともしょっちゅうでした。
そんな俺に振って湧いた喜劇です。

1:出会い

特に何もやる気が起きず、ニートへ転げ落ちようとしてた社会人生活3年目の俺。そんな時、同期(以下O)から誘いがありました。「合コン行かねぇ?」彼には会社入ったときからこういう場をセッティングしてもらってたので、(どうせ人数合わせだろうな)と思いながら行ったわけです。また、彼自身結構レアな人脈もあるわけで、ひそかに楽しみにしてました。前回は看護婦さんだったのですが、今度は「ピアニストが来るぞ」とのこと。心は少年のようにときめきます。
で、合コンの待ち合わせ場所で、初めてその「ピアニスト」とご対面。女の子側の幹事でした。顔は若干砂漠化してましたが、格好は結構若々しかった。店まで歩きながらもひたすら喋る喋る。Oともう一人はそんな彼女を見て既に引き気味なくらいでした。飲み会が始まっても相変わらずそんな感じ。
ここで、騒がしい彼女をぼけーっと観察していると、こいつ、誰かに似てるなぁ、と思ったんです。……音楽やってて、ぼけぼけで……そうだ、『のだめ』だ。というわけで、ぼそっと呟いてみました。「まるでのだめやなぁ……」と。当時はまだテレビドラマ化もされておらず、知る人ぞ知る漫画だったので、何で知ってるの??と興味津々な顔で食いついてくる。そして全巻持ってる事や文化庁の賞を受賞したこと、そして少女漫画であることを告白したら……あかん! まわりの空気が冷たい!やっちまった! この前もプリキュアが好きな事を言って引かれたばかりだというのに!! こうなったら、話をテキトーにあわせて食いつなぐしか。
そして、彼女がある女性アーティストを好きな事を聴取。俺も彼女の曲が大好きなので、そこで攻勢に転じて話をあわせてみたり。当然その曲も弾けるというので、社交辞令的に「ピアノ今度聞かせてねー」とか言った覚えがあります。
とか、そんなことはありながらも、その場では何事も無く合コンは終了。Oは「ごめんっ!」とひたすら謝ってました。彼が何故謝っているのか、その時は理解できませんでした

2:再会

合コン終わって、二・三日してから彼女からメールが。Oから、彼女にメアドとか電話を教えていいかって聞かれて承諾したからなのですが。仕事の合間とかにメール交換しながら、次の日曜日に食事することに。俺は彼女の事を気に入ってたからOKしたし、向こうも恐らく俺と馬があうんだろう、と思ってました。
その日は普通に食事して、CDを借りました。なぜかおごってもらいました。パソコンのメールアドレスも交換しました。コース料理を仲良く食べる男女。周りからすれば完全にカップルだったでしょうね。
この時、俺はその娘の事が好きだったと思います。仕事終わって疲れ果てて帰ってきても平気でパソコンの前に向かって、熱いパトスをキーボードに叩きつけて、その娘に送るメールを作ってました。当然、恋愛の相談にものります。当然、歯の浮くようなセリフを言います。「君が泣く為の胸くらいなら何時でも貸してやるから」とかさ。笑わないでくださいよ。なにせ、いい気になってましたから。
そして、そんなやり取りを繰り返した後の木曜日の夜。彼女から「明日の夜映画見に行かない?」と。
金曜日、女の子と映画。一ヶ月前なら想像も出来なかったことです。電車男よろしく、急速に一般人に近づいてるような感じです。でも、その為には普段10時に終わってる仕事を8時に切り上げなくてはいけません。先輩に正直に事情を話して早く帰りました。「そうか、とうとうお前も……」みたいな生暖かい視線の元、意気揚々と会社を出ました。その日の昼に、上司に対しても「結婚すれば人生ってやっぱり変わるんでしょうね」「相手が居ればすぐにでも結婚したいです」「実は、今落とそうと思っている女性が居るんです」とか強気な発言を繰り返してましたし、多分大丈夫でしょう。

3:勝負

職場の側まで、車で彼女に迎えに来てもらいました。彼女はいつもと違う香水をつけてました。

俺「ごめんね、遅くなって」
彼女「ううん、いいよ別に」

すっかり恋人同士だよなぁ……いや、俺が一方的に思ってるのかな? でも、ここまでしてくれるってことはひょっとして……?
ま、あれだ。恋っていいねぇ。でも、今は映画を見ることに集中しよう。
 
映画自体は可も不可もなく、普通でした。ただ、結構長い映画なので終電も終わってたわけです。……( ̄ー ̄)ニヤリ こうなったらやる事は一つしかないでしょう。というわけで誘ってみました。

「家の近くで夜桜見ない?」

ああ、ヘタレさ。ヘタレとののしってくれよ。でもね、彼女の車の中で話をしながら、そして夜桜を見ながら考えたわけです。短期的にこの関係を収束させるなら、あまり気持ちが煮詰まってないけど、思い切って告白するか。今後とも深いお付き合いを図りたいので、短期的な収益は追及しないようにするか。私はヘタレなので、いや、それ以上に、この時は彼女の事を大事に思ってたので後者を選びました。今日は何もせず、次回以降に持ち越しだな、と。夜桜見ながら、次こそはちゃんと言おう。そう思いました。

4:仲良し

そして土曜日。寮から実家へ帰るために車運転してたら、いきなり彼女からメール。

昨日はありがとう! ところで、昨日言ってた、貴方の実家近くの桜を見たいと思うんだけど?

冗談でしょう? あんたの家から100キロはあるぞ。それでも、「友達ももう誘った」とか。おまえ、クスリやってるんじゃないか?
とはいうものの、私には断れるはずもなく。というわけで、実家から10キロくらいの桜の名所に連れて行き、彼女の友達と一緒に桜見たりビリヤードしたりして遊びました。
このとき、私は思ってたわけです。「友達を一緒に連れてきたということは、俺を見定めさせるためじゃないか」とか。そう、電車男エルメスも同じ事をしてましたよね。もう、普段からは考えられないこのプラス思考。
そして、彼女たちと別れて実家に帰って、明日どう過ごそうかなぁ、思い切って彼女に告白してみようかなぁ、とか考えてると、ちょうど大学時代の同級生A(男)から電話があったのです。
世間話に始まり、お互いの近況をつらつらと。今Bさん(女性)と桜を見てるんだけど、最近どうよ?みたいな感じで。桜? 俺はそれを、すごく楽しい思いで見てきたばかりだよ!! 俺は即答ですよ。「今?最高に調子いいよ!!」と。「よかったねっ!」と、Bさんにも喜んでもらいました。
Bさんは表裏の無い凄く良い人で、サークルメンバーで卒業旅行行った時にも結構一緒に居た覚えが。そんな人に祝福してもらえるんなら、俺も頑張ろう。そう思った土曜日の夜でした。
 
あの時が、私の人生の絶頂だったような気がします。

5:転機

日曜日。私はある所に行こうとしていました。「手に光を当てて健康状態を測るアルバイトをしているんだけど、来ない?」と彼女に言われたからです。常識的に考えれば、どう解釈しても不自然でおかしいのですが、いい気になっている私は気が付きません。俺のスタンドを飲み込んでくたばりやがれッ!て皆さん思われたことでしょう。そして、いわれた場所に車を飛ばしていってみました。
結論から申し上げますとNetworkBusinessでした。手に光を当てる→「あら!あまり貴方の体はよくないわ!」→「じゃあどうしたら?」→「このサプリを飲むに限るのよ!」→「でも高いんでしょ?」→「そんなことないわ! 会員になれば安く買えるし、子会員が増えると売り上げの何割かが奨励金でもらえるのよ!」
……恐怖より何より、この状況、オイシすぎると思いました。モテない俺が女性に声を掛けられたかと思えばマルチ。その場に居た自称「○○(←宝石とかの名前がついていた)ディストリビューター」は「君には夢はあるか? その夢はしがないサラリーマン生活では叶えられないのではないか? だったら、副業として始めてみよう。そしてゆとりある余生を過ごそうではないか!」みたいな演説をぶってくるし。
言い負かすと彼女に迷惑がかかりそうだったし、なにより個人情報をかなりの部分で向こうに晒してるため(実家の場所、寮の場所、電話番号、会社の場所etc.)、大人しく興味なさげに聞いてましたが。海外旅行や外車が夢とか、それは人間として恥ずかしくないかい? とかそんな台詞が喉の付け根まで出掛かってたけどね。
洞ヶ峠を決め込んで、ようやく開放された帰り道、車の中で大笑いしながら帰りました。目から汗が止まりませんでした。
全部営業活動かよ、クズが! もう二度と女性は信用しないぞ!

6:結末

それでも月曜日には会社に行かなければいけません。出社一番、先輩に聞かれました。「どうやった? 最後まで行ったか?」と嬉しそうに。「デート商法でした」と答えた時の、あの笑っちゃいけないけど笑いをこらえ切れない顔は、私は一生忘れられないでしょう。♪世界はそれを哀と呼ぶんだぜ〜!
しかし、人に笑い飛ばしてもらわないといつまでもショックを引きずるのも事実なわけで。というわけで、各方面に電話しまくりました。普段電話をめったにしない友人に対しても。皆に慰めてくれたり、アドバイスしてくれたり。中でも、Bさんにこの話をして、そのときの精神状態の勢いもあって強引に誘ったら、一緒に縁切り神社に行ってくれたことには本当に感謝してます。
友人って良いなぁ。俺もそんな相談を受けたら、きちんと返そう。
 
こうして私の初めてに近いリアル恋愛体験は、最低な形で幕を閉じたのである。
みなさんも、偽物の笑顔にはお気をつけ下さい─

p.s.

その後、同期のOにこの話をしたら「俺も誘われたけど断った」とか言ってくるし。
てめぇ人を売りやがったな(#^ω^)ビキビキ
 

          • -

ま、正確に言うと金子を失ったわけではないので、引っ掛かってるわけじゃないのですが。でも、いろいろと大切なものを失ったかもしれません。信じる心とか。あと、告白してOK貰ってたら更に泥沼化してた可能性もあったわけで、そう考えるとヘタレで良かったなぁ、とも思う。
最後にもう一度。この話はフィクションだからな。いいか、フィクションだぞ!